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最高裁判所第二小法廷 昭和48年(オ)766号 判決 1974年4月26日

上告人

合資会社 水野メダル商舗

右代表者

水谷志子

右訴訟代理人

大脇松太郎

武藤鹿三

被上告人

西脇由兵衛

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人武藤鹿三の上告理由第一点、第二点及び同大脇松太郎の上告理由について。

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)挙示の証拠関係及び説示に照らし首肯することができ、その認定判断の過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

上告代理人武藤鹿三の上告理由第三点について。

土地賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情のないかぎり、その効果を地上建物の賃借人に対抗できないことは、所論のとおりである。

しかし、(一)本件土地の賃貸人である被上告人は、賃借人である亡水野善兵衛との間で、昭和三〇年一二月一五日、本件土地の賃貸借契約を合意解除し、水野善兵衛は昭和三五年一二月末日かぎり本件建物を収去して本件土地を明渡す旨の調停が成立したこと、(二)上告会社は昭和二七年六日一八日設立された合資会社で、設立と同時に本件建物を水野善兵衛から賃借しその引渡しを受けていたこと、(三)上告会社は徽章、メダル、バッジ類の製造販売、金属加工、七宝製品の製造販売等を目的として設立されたが、これは、従前水野善兵衛が個人として行つてきたものを会社組織に改めたもので、同人は設立と同時にその代表者となり、以後、昭和三二年一二月一五日死亡するまで上告会社の無限責任社員であつたこと、(四)上告会社は設立当時から従業員五、六名を擁するにすぎず、設立の前後を通じてその経営規模にさほどの変更もみらなかつたこと、(五)前記調停当時、上告会社の代表者であつた水野善兵衛は会社設立のことにはふれず、被上告人としては上告会社の設立について全く知らなかつたこと、以上の事実は、原審の確定するところであり、右事実関係によれば、本件土地賃貸借契約の合意解除をもつて、その地上の本件建物の賃借人たる上告会社に対抗できる特別事情に当たると解することができ、これと同旨の原判決の判断は正当である。所論は、独自の見解に立つて原判決を非難するにすぎず、引用の判例は本件に適切ではない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(吉田豊 岡原昌男 小川信雄 大塚喜一郎)

上告代理人武藤鹿三の上告理由

原審判決の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

<前略>

第三点 原審が被控訴人の請求を正当として控訴人に対し第一審判決添付の目録記載の建物から退去しその敷地約113.16平方メートルの明渡しを命じた点は法令に違反する。

その理由は次の通りである。

(一) 上告人会社は会社の設立登記された昭和二七年六月一八日以来訴外水野善兵衛から本件建物を適法に賃借し引続き今日に及んで居り、本件建物に附随した原告所有の本件土地の使用占有権も右会社の設立登記以来適法に賃借取得しているのである。本件建物の転貸を禁ずる特約はなされていなかつた。

(二) 原告は訴外水野善兵衛との間に於て昭和三〇年一二月一五日本件土地に対する賃貸借の合意解除を為したと言うのであるが、前記の如く本件土地上建物につき、右訴外水野善兵衛と上告人会社との間に既に成立している建物賃貸借により発生している賃借権及びそれに伴う土地使用権は、右合意解除によるも消滅するものではない(民法第三九八条、五三八条の法理より推論し得)。

仍つて、上告人会社の有する建物賃借権及び同賃借権に附随する本件土地の使用占有権は依然として存続しているのである。

然るに、原審が上告人に対し、本件建物から退去してその敷地の明渡を命じた点は法律の解釈を誤つたもので到底納得することができない(原判決は、昭和九年三月七日大審院判決、昭和三七年二月一日最高裁第一小法廷判決に違反する)。

(三) 原告が上告人会社に対し、本件土地の明渡を要求し得ないことは、右の理由に基づくもので、それは信義誠実の原則に照しても当然のことと言い得る。況んや、原告が本件土地の明渡を求める動機は、原告に於て自動車々庫に充当する為、住宅、店舗用本件土地の明渡を求めると言うのであるから、正に権利の濫用であつて、違法と言う外はない。

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